造園・緑化事業においては、計画地に存在する自然に近い土壌を有効活用するため土壌調査を行う場合があります。また、植栽地に整備された土壌基盤(盛土や切土された地盤)に対し、植栽前に土壌調査を行うことがあります。
この土壌調査によって、植物に対して適切な植栽基盤とするため、課題を抽出し、土壌改良などの整備手法を検討することができます。
造園・緑化事業の土壌調査には次のようなものがあります。
検土杖
検土杖は以下に示すような器具で、ハンマーなどを使用してこれを土壌に打ち込み、引き抜くことによって検土杖の溝に詰まった状態で採土できます。
検土杖調査では、緑化対象地の土壌分布などを調べたり、良質土の土量を調べたりして、現地土壌を有効利用するための基礎資料にします。
【調査項目】土層・土性・土色・乾湿・還元反応・可塑性・粘着性など
土壌断面調査
土壌断面調査は、以下のように土壌を1mほど掘削し、現れた土壌断面を調査する方法です。
【調査項目】土層・土性・土色・乾湿・還元反応・可塑性・粘着性・根量・斑紋・結核・礫・土壌硬度など
土壌断面調査は、検土杖調査や土壌図などから調査対象地を代表するような場所において実施し、検土杖よりもより詳しく正確な土壌の様子を把握することができます。また、土壌分析を行う場合、土壌のサンプリングも行います。
土壌硬度試験
植物根系が伸長できるかどうか、土壌の硬さ(柔らかさ)を測定します。
測定機器は一般的に「山中式土壌硬度計」。「長谷川式土壌貫入硬度計」の2種類があります。
山中式土壌硬度計は、土壌断面調査時に掘削した土壌断面に対し、硬度計の先端を土壌に押し付け、表示される硬度(mm)を測定します。
長谷川式土壌貫入硬度計は、地表面から計測を行い、おもりを落下させる打撃により貫入ロッドを地中に貫入させ、1打撃当たりの貫入量(㎝)で硬さを評価します。
山中式土壌硬度計は緑地だけでなく水田、畑、樹園地などの耕作地や森林土壌などでも幅広く利用されていますが、土壌断面を掘削する必要があります。
一方、長谷川式土壌貫入硬度計は、主に緑地整備において利用され、土壌断面を掘削する必要はありませんが、礫や植物の根にあたってしまうと、測定できないことがあります。
調査地や調査目的に応じて、機器を使い分ける必要があります。
現場透水試験
ここでは、「長谷川式簡易現場透水性試験」、「シリンダーインテークレート」の2種類の方法を紹介します。
長谷川式簡易現場透水性試験では、透水性を測定したい位置(植穴深さなど)までダブルスコップで試験孔を掘削し、水を注水し、その後の減水速度を測定します。
シリンダーインテークでは、写真のシリンダー(金属製筒)を地中に打ち込み、シリンダー内に注水し、減水速度を計測します。主に芝生面など地表面における透水性を測定する場合に用います。
また、造園・緑化事業の対象地は次のように幅広く、それぞれ潜在的な問題点を挙げることができます。
丘陵造成地
土壌の主な問題点
問題点 | 内容 |
固結 | 造成によって現れた土壌は、地下深部にあったために硬く固結している。また、大型土木機による転圧によって土壌は締め固められている。 |
養分不足 | 丘陵地の造成面は、腐植を多く含み養分に富む表層の土壌が失われてしまうために、植物に用いられる養分が不足している。 |
排水不良 | 固結した基盤の上に盛土や客土を行った場合、固結部分が不透水層となり排水不良となる。また、盛土や客土自体の透水性が悪いと排水不良が生じる。 |
強酸性土壌の露出 | 切土により酸性硫酸塩土壌と呼ばれる強酸性土壌(pH4.0以下)が斜面などに現れることがある。 |
対策例
問題点 | 対策例 |
固結、還元、排水不良 | 固結、還元、排水不良の対策として、耕耘し、膨軟化するとともに、膨軟な状態を維持するため粗粒質の改良材を混合する。または、客土材を用いる。 |
排水不良 | 基盤造成の際に排水勾配をとり、暗渠排水などを設置することにより植栽基盤内の余剰水を速やかに排水する。 |
養分不足、強酸性土壌の露出 | 林地などに分布する良好な表層土壌をあらかじめ取りわけてストックし、植栽用の客土として用いることができる。 ストックの際には、土壌の性質が劣化しないよう排水などに注意する必要がある。 |
海浜埋立地
問題点
問題点 | 内容 |
還元 | 海底浚渫土を用いて埋めたてている場合、海底浚渫土は空気に触れることがなかったために酸素不足状態になっている。 そのまま植物を植えると枯死する。 |
塩類 | 海底浚渫土は、高濃度の塩類を含んでいる。また、臨海埋立地の地下水位を測定した事例では、水位は樹木の根系が存在する高さまで上昇することがあり、また高い塩分濃度を記録することもある。塩類障害により、植物の給水が阻害され枯死することがある。 |
アルカリ性 | 埋立直後は残留した塩類や土壌固化処理剤によりアルカリ性を示す場合がある。 |
養分不足 | 埋立用の盛土材は植栽用土壌にくらべ、養分が不足している。 |
固結 | 埋立地では後に地盤が沈下するのを防ぐために、大型重機により地盤を締め固めている。このため植物の根が生長できないほど土壌が固結している場合がある。 |
対策例
問題点 | 対策例 |
上記問題点すべて | 植栽された植物が順調に生育していくうえで、確保すべき土壌の厚さと広がりを有効土層という。樹木の大きさによりこの範囲はことなり、これを、改良土壌などによって確保することが重要。 |
還元 | 還元している土壌は、強制酸化剤などをもちいて酸化させる。または、客土材を用いる。 |
塩類、アルカリ性 | 土壌を適正な酸度に中和する。土壌分析により中和に必要な薬剤量をもとめ、適性量を施用する。 |
アルカリ性 | 下層のアルカリ性物質や塩類が植栽基盤に上昇し、汚染するのを防ぐため、再生砕石などによる遮断層を設ける場合がある。 |
工場跡地
問題点
問題点 | 内容 |
強アルカリ性 | 工場建設時の地盤安定処理に使用された石灰、セメントなどにより、土壌が強アルカリになっている場合がある。 |
礫、夾雑物、油分などの混入 | 礫やコンクリート塊、廃油等が土壌に混入している場合がある。 |
対策例
問題点 | 対策例 |
強アルカリ性 | 土壌を適正な酸度に中和する。土壌分析により中和に必要な薬剤量をもとめ、適性量を施用する。 |
礫、夾雑物、油分などの混入 | 障害性の高い表層土壌と正常な下層土壌を反転し、表層土の障害性を低減する。(基準値以上の汚染がある場合は別途調査・対策が必要) |
低湿埋立地(水田土壌)
主な問題点
問題点 | 内容 |
還元 | 水田などでは還元状態(酸素不足)にある土壌が広く分布していることがあり、そのような土壌が造成地の表層に混入している場合がある。 |
排水不良 | 地下水位が高く、排水不良となる危険性がある。 |
固結 | 埋立地では後に地盤が沈下するのを防ぐために、大型重機により地盤を締め固めている。 このため植物の根が生長できないほど土壌が固結している場合がある。 |
対策例
問題点 | 対策例 |
還元 | 還元している土壌は、強制酸化剤などをもちいて酸化させる。または、客土材を用いる。 |
排水不良 | 暗渠排水などにより、余剰水が速やかに排出されるようにする。 |
固結 | 固結した土壌は、耕耘し、物理性を改善する土壌改良材を混合することにより、通気性と透水性を確保する。 |